東日本大震災が発生した時、関東などの大都市圏では多くの公共交通機関が機能停止に陥り、大勢の「帰宅難民」が発生しました。
「家のことが心配」
「家族に連絡取れない」
「愛犬/愛猫は無事なのか・・・」
「早く帰りたいけど、電車がストップしてる」
「タクシー乗り場は長蛇の列」
「数十キロの道のりを歩いて帰るか?」
・・・と困り果てた経験を持つ人も多いと思います。
この記事では、公共交通機関利用の徒歩通勤の方が、通勤時・勤務時に災害が発生した場合、どのような問題が想定されるか、それに対しどのような物が必要なのかを明確にし、それらを会社のロッカーなどに置いておく通勤用防災セットとしてまとめました。
ご参考になれば幸いです。
※通勤時にいつも持ち歩く防災セットではありません。
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想定されるシチュエーション
大きな地震が発生した場合、鉄道各社は運行区間の線路点検を行います。
また線路鉄橋がまたぐ川が危険水域まで増水した場合、運行の見合わせとなることがあります。
そして、実際に線路や施設が被害を受けた時、長時間鉄道不通の状態に。
バスについても河川の堤防決壊・氾濫や地震による停電・交通マヒなどで長時間運行できない事態になることがあります。
通勤途中および勤務先にいるあなたにはどのような困難が待っているのでしょうか。
シミュレーションしてみましょう。
※この記事に記載以外にも多様なケースが想定されますが、通勤用防災セットが活躍できるケースに絞って記載しています。
駅に滞在するケース
勤務中に大地震発生、会社居室内は一瞬にして足の踏み場も無いような有様。
社員全員で最低限の応急処置を行ったところで、社長指示により、社員は一斉に退社することに。
あなたは混乱の中、会社を出たものの、鉄道の駅は大勢の人でごった返しています。
線路点検のため鉄道が運行を見合わせているようです。
1時間、2時間・・・3時間と時間経てど復旧の目途がつかない様子。
タクシー乗り場は長蛇の列、交通マヒの情報もあり何時自宅に到着できるかも分かりません。
それに長距離のためタクシーを使うだけのお金もありません。
会社建屋は既に施錠されているはずだし、近郊のホテルはどこも一杯です。
行くところがありません。
あなたは、鉄道復旧を期待し、駅舎の屋根有りスペースで待つことにしました。
「夜」「寒く」「電話は不通」「情報を入手できない」「スマホの電池切れが心配」な状態。
さらには近郊の飲食店や商店も被災、営業しておらず、「必要な飲食物など入手できない」。
あなたはこれら困難に直面しました。
勤務先に滞在するケース
勤務中に大地震発生、即座に情報収集、あなたは尋常じゃない被害状況を知り愕然としました。
鉄道は当面運休とのこと。
なんとか家族とは連絡が取れ、自宅において無事であることを確認。
社長は社員全員に必要に応じて会社建屋に留まることを許可しました。
会社を出ても自宅にたどり着くのは無理と考えたあなたは会社に一晩泊まることにしました。
「停電」「寒く」「通信回線パンク」「情報を入手できない」「スマホの電池切れが心配」な状態。
幸い机の引き出しの中には普段のオヤツがあるし、貯水槽の水を使い切るまでは水も出ます。
あなたは、今日のところは可能な限り情報収集を試みつつ会社に滞在、明日にはなんとか自宅に帰ろうと考えました。
公園などの広場(露天)に滞在するケース
朝の通勤途中、会社最寄りの駅を出て10分程歩いた時に大地震発生。
わずか数十秒であたりは大きな被害を受け、目も当てられない惨状です。
路上にはビルの外壁が落ち大変危険な状況。
倒壊している建物もあります。
なんとか会社に到着したものの、とても業務遂行は無理。
社長指示により今日のところは社員全員が帰宅することに。
Uターン、帰宅すべく駅に向かいましたが駅舎内は足の踏み場もない状態。
数時間駅で待ったものの鉄道は当面運休とのこと、復旧の目途はなし・・・
同じく出勤中の家族とは連絡が取れません。
遠距離の自宅にいる愛犬・愛猫も心配です。
不安を抱きながら、屋根のある建物に行く当てもなく、時にはあたりの人を助けながら、近くの公園にたどり着いたあなたは、そこで一夜を明かすことにしました。
「夜」「寒く」「通信回線パンク」「情報を入手できない」「スマホの電池切れが心配」「空腹」「セキュリティ面の不安」「雨天の可能性あり」の状態。
この難局をどう凌ぐべきか。
長距離を徒歩帰宅するケース
夜の6時頃、勤務を終え、大雨の中会社を出て電車に乗ったまでは良かったものの、途中の河川が増水、危険水域に達したことにより電車は線路鉄橋を渡れず立ち往生しました。
1時間後、結局河川の水位が下がる見込みはなく、電車は直前の駅まで戻り、その後一切の電車は運休となってしまいました。
天気予報で予測できたことなのに、定時まで会社に居続けたことを後悔しましたが、時すでに遅し。
いつもは通過するだけの途中駅で降ろされ、土地勘もありません。
また小さな駅でタクシーも掴まりません。
スマホを使いオンラインマップで調べ、自宅への距離は約20km、徒歩で3時間半の行程と確認。
途中の橋は、車などの車両と人間は渡れるようです。
あなたは、傘を広げ、大きく息を吐き、大股で歩き出しました。
自宅まで徒歩で帰ります。
「大雨」「ハイヒール」
そしてスマホの長時間利用により、「電池切れが心配」な状態。
無事帰宅できるでしょうか。
必要なものを準備しよう!
前章「想定されるシチュエーション」をご覧になったあなたは、通勤用防災セットとして何が必要になるか、おぼろげに見えてきたと思います。
ここでは具体的に一つ一つ紹介していきます。
ペットボトル水
災害発生時、断水し、近くの小売店で水を買うこともできなくなる場合があります。
水は、500mlペットボトル1本用意しておきましょう(夏なら2本がベター)。
また半年ごとに消費→補給するローリングストックがお薦め。
その場合、普通にスーパーなどで買える水で充分です。
非常食
水と同様、食べ物も調達できなくなる可能性があります。
1,2日では死にはしませんが、大変な空腹を我慢することになります。
カロリーメイトなどの小型で保存ができ、収納しやすい商品が良いでしょう。
水と一緒にローリングストックするのがお薦め。
<カロリーメイト参考ツイート>
カロリーメイト(1年)とカロリーメイトロングライフ(3年)は何故賞味期限が違うのか、製造元の大塚製薬さんに問い合せしました。要約すると、ロングライフは『鉄』を含めないことで、風味劣化を防ぎ、3年に渡って美味しく食べられる様にした、とのこと。違いは鉄分の有無だけだったんですね。 pic.twitter.com/TGcrDhFT78
— もし防くん (@moshiboM) March 19, 2020
また、アメやキャンディも最低限のエネルギー補給や夏場の塩分補給に役立ちます。
モバイルバッテリー
安否確認や情報収集、報告などでスマホや携帯電話は長時間酷使されます。
するとたちまちバッテリー残量が気になります。
モバイルバッテリー1個、容量は最低でも10,000mAhは必要でしょう。
※普段から通勤時に持ち歩いている方は、特に追加で必要とはしません。
※写真の商品はケーブル一体型です。通常はケーブルも合わせて用意してください。
<参考記事>モバイルバッテリーの選び方
ミニラジオ
スマホを使った通信ができず、情報入手手段がなくなる可能性があります。
そんな時のために、ミニラジオを用意しておくと安心です。
商品選びのポイントは、「小型」「イヤホンで聞ける」こと。
乾電池式の場合、未開封の乾電池も合わせて必要。
USB充電式のものは、手持ちモバイルバッテリーで充電できるのが強みです。
ミニライト
夜間、停電などで明かりが無くなると大変不自由で不安にもなります。
ミニライトでも明かりがあれば大いに助かります。
ポイントは、「小型」「照射モードにより長時間使える」です。
(同上)
乾電池式の場合、未開封の乾電池も合わせて必要。
USB充電式のものは、手持ちモバイルバッテリーで充電できるのが強みです。
保温シート
特に冬場は大変寒くなります。
地域によっては夏の夜でも肌寒く感じます。
保温シートは一枚用意しておきましょう。
お薦めは、カサカサカサと耳障りな音を出さないタイプのもの。
※写真商品のサイズ:収納寸法11x8x2.5cm(折り畳んだハンカチ位)、展開寸法130x210cm
※「レスキューシート」「サバイバルシート」「アルミシート」など商品によって名前は異なります。
レインコート/ポンチョ
大雨災害や地震発生時の急な雨の時に役立ちます。
ポイントは、「小型収納できるもの」です。
ある程度の値段で良いものが買えますが、収納サイズが大型になる難点があります。
例えば100均の商品でも1回ちゃんと使えればOKと割り切るのも一つの考え方です。
携帯トイレ
特に女性の場合は、簡単に用を足すわけにもいきません。
携帯用トイレを用意しておきましょう。
多くのケース小用に対応できれば大丈夫ですが、大小兼用のものもありますのでお薦めです。
スニーカー靴
長距離を徒歩帰宅するケースや荒れた路上を歩くときなど、ビジネス靴やハイヒールでは困ります。
歩きやすく足に慣れたスニーカーを用意しておきましょう。
小さめのリュックサック
上記必要なアイテムを一まとめするために小さく軽いリュックサック(容量15L以下)を使います。
少しスペースに余裕があれば、非常時に普段使いの通勤カバンやバッグは会社に置いておき、最低限必要なものだけリュックサックに移すことができます。
両手フリーにできる利点があります。
※スニーカー靴はリュックサックに入れる必要ありません。
リュックサックと一緒にロッカーに置いておきましょう。
状況に応じて欲しいもの(オプション)
グローブ/手袋
通勤路に古い住宅地や急な斜面下などがある場合、被災により進路が塞がれる場合があります。
少々危険なものを掴んで除ける時など、グローブや手袋を用意しておくと役に立ちます。
お薦めは写真のようなラバータイプのもの(軍手はお薦めできません)。
踏み抜き防止インソール
同上、古い住宅地が通勤路にある場合、被災時倒壊した建物の上を歩くケースなどがあるかもしれません。
スニーカーに踏み抜き防止インソールを入れておけば、釘などの危険から体を守ることができます。
使い捨てカイロ
冬場や寒い地方では必要に応じて用意しておきましょう。
自衛手段
特に女性の場合、非常時においてセキュリティ面の不安がつきまといます。
必要に応じて、自衛用のツールを用意しておきましょう。
安価なものでは、ホイッスルがあるだけでも多少は役にたつでしょう。
もの選びのポイント
最後の章では、通勤用防災セットを作る時、つまり具体的に商品を選んでいく時のために、頭に入れておきたいポイントをいくつか紹介します。
「良いもの」は必ずしも「相応しいもの」でない
通勤用防災セットは、災害発生時に急遽訪れる困難を乗り切るために必要なものを限られたスペースの中に詰め込んだものです。
従って、良いものだけど重い、良いものだけど嵩張る、様ではイザという時に支障がでてくる可能性があります。
極端な話、一度の災害を乗り切れたらそれでOKなのです。
商品選びの観点の一つとして覚えておきましょう。
「値段」と「品質・性能」と「懐具合」
安いものは「イザという時に役に立たないのではないか?」と不安になります。
かと言って、全部のアイテムを最高品質のもので揃えたら、どれだけお金が必要になるでしょうか。
通勤用防災セット作りは、あなたがやるべき防災対策の一つに過ぎません。
一部のリッチな人を除いて限られた予算内でやるべきことです。
「値段」と「品質・性能」のバランスを取ることが大切です。
商品販売サイトの口コミなどを参考に、あなたにとっての最適なラインを見つけてください。
なんでもかんでも詰め込まない
当記事では災害時に想定されるシチュエーション・困難をいくつか記載しました。
そして想定される困難に対して最低限用意すべきアイテムを明確にしました。
ところが想像豊かな人は、あれも困るこれも困ると想像を膨らまし、それに対応するアイテムをどんどん増やしてしまいます。
結果、小さなリュックサックには入りきらず、大きなバックパックを用意することになります。
非常時は平常時とは大きく違って、色々な困難が待ち構えています。
大きく重い荷物は、言葉通り「お荷物」になりかねません。
あれもこれもと詰め込みたくなる気持ちは理解できますが、小さなリュックサックに入る最低限のものだけにしましょう。
<更新履歴>
2020/03/02 記事公開
2021/02/19 「防災備蓄に欠かせないモバイルバッテリーの選び方」のリンクカード追加